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古墳時代:近江の玉作遺跡の具体例
近江の玉作遺跡で代表的な遺跡の遺構・遺物について紹介します。
辻遺跡と周辺遺跡(弥生前期〜中期、野洲川下流域の中核玉作遺跡)

遺跡のあるところ

前出地図の遺跡番号15〜18にあたる遺跡です。
栗東市の辻遺跡は野洲川下流域の玉作遺跡の大規模拠点集落で、渡来文物が多く渡来人の存在が感じられる所です。直ぐ近くには岩畑遺跡、林遺跡、蜂屋遺跡などの玉作遺跡があります。
これら周辺の遺跡からは工房跡は見つかっておらず、玉作関連遺物の出土もとても少ないのです。辻遺跡では多くの玉作工房跡が見付かり、玉作関連遺物の出土も相当量に達します。
辻遺跡は玉作だけではなく、鉄器関係の遺構も多く見付かっています。
辻遺跡と周辺の遺跡群
辻遺跡と周辺遺跡
辻遺跡の集落群

辻遺跡の集落群
出典:古墳時代における鉄器と玉作の様相(近藤広)を改変

辻遺跡で見付かった遺構

辻遺跡では、玉作遺構・遺物が見つかる地域が複数あります。
・辻小坂地区:玉作遺構と鉄器遺構
・辻南地区 :玉作遺構
・辻北東地区:玉作遺構
・辻北西地区:鉄器遺構、玉作遺構
・辻出庭地区:鉄器遺構、ガラス玉遺構
注:[鉄器遺構:鉄製品が出土or/and鍛冶遺構が出土する]
ちなみに辻遺跡の南側にある高野遺跡は多くの鉄器関連建物があるところです。
このように辻遺跡は玉作の拠点集落であると同時に、鉄器関連集落でもありました。鉄器が出土するだけではなく、鍛冶遺構が見られます。鉄素材を加熱し加工する工房が多くありました。
辻遺跡小坂地区 遺構図
辻遺跡小坂地区 遺構図
辻遺跡南坂地区 遺構図
辻遺跡南坂地区 遺構図
出典:古墳時代における鉄器と玉作の様相(近藤広)を改変

野洲川下流域の弥生・古墳時代の遺跡範囲を見ると、辻遺跡はとても広範囲にわたっており、他の平均的な遺跡の2〜3倍ほどあります。上の図で辻遺跡**地区と書いてあるのは、複数の玉作遺跡が集まっている地区を示します。
【辻遺跡(小坂地区)】
小坂地区の玉作工房の分布を示します。これまでに玉作工房が6棟確認されています。未発掘の部分が広く、もっと多くの玉作工房があったと推定できます。
ここには鉄器関連工房もあり残りの建屋の半数以上が鉄関係でした。ここでは、古墳時代初期中ごろより碧玉系(主に緑色凝灰岩)を用いた玉製品を作っていました。
中期に入ると、碧玉の玉作は終わりとなり、玉作は辻遺跡(北東地区)、(南地区)に移り滑石製品を作るようになります。
鉄器関係では、鉄器だけではなく鉄滓も出ており鍛冶遺構があったようです。この鍛冶遺構では玉作用の鉄工具と考えられるものが見付かっています。
小坂地区には祭祀専用の竪穴建物があり、祭祀に使った遺物が残されていました。建屋内の土坑の形が玉作工房の様式なので、玉作に関する祭祀を行っていたとも考えられます。
他の地区での玉作祭祀がここで続けられていたのでしょう。
【辻遺跡(北西地区)】
北西地区は玉作に関連する滑石未製品・チップなどの出土は極わずかで、むしろ滑石完成品が多量に出土します。玉作遺構というよりは、出来上がった滑石製品を保管しておく施設の観があります。
この地区には鉄器が出るとともに鉄滓が出土しており鍛冶遺構があったと推定できます。
滑石完成品が製鉄関連遺構の近くに多く保管されていることから、鉄に関連する祭祀で用いた可能性も示唆されます。
【辻遺跡(南地区・北東地区)】
古墳時代中期になると辻遺跡南地区や北東地区で滑石のみによる玉作生産が始まります。
出土する遺物は、滑石製の勾玉、管玉、臼玉、有孔円板、剣型などの未製品、製品です。多いのは臼玉で約90%を占めています。
南地区では、65棟の竪穴建物が見つかっていますが、確実に滑石製品を作っていた遺跡が5棟確認されており、床面から原石や未製品が出土する建物が7棟ありました(慣例的に玉作遺跡とされる)。
北東地区の玉作遺跡数は、南地区の約2倍となっています。
この地区では、総数1500点、30kg以上の滑石関連遺物が出土しており、北東地区でその80%を占めています。
【辻遺跡(出庭地区)
出庭地区で古墳時代中期の竪穴建物が12棟見つかりましたが、そのほとんどが鉄関係の建物で、鉄製品や鉄滓、フイゴの羽口などが出ています。
そのうちの1棟からガラス小玉の鋳型が見つかり、ここでガラス小玉を作っていたと推測されます。 ガラス小玉の鋳型の出土は滋賀県では初めてのことです。

【見付かった遺物】 緑色凝灰岩:1.6kg  滑石:30kg超え

辻遺跡玉作遺物
辻遺跡玉作遺物
辻遺跡 碧玉、滑石の剥片
辻遺跡 碧玉、滑石の剥片
写真:栗東市発掘調査年報(栗東市教育委員会)

辻遺跡ガラス小玉鋳型
辻遺跡ガラス小玉鋳型
辻遺跡ガラス小玉鋳型復元想像図
辻遺跡ガラス玉鋳型復元想像図
写真:辻遺跡現地説明会資料(滋賀県文化財保護協会)
【辻遺跡の周辺遺跡:岩畠遺跡、林遺跡】
辻遺跡の南東に隣接する岩畑遺跡、そのまた南東に隣接する林遺跡からも少量ながら滑石の玉作遺物が出てきます。
岩畑遺跡は鉄器工房とみられる鍛冶遺構が古墳時代前期〜後期を通して多く見つかっています。玉作遺跡というより、鉄器・鍛冶遺跡という方がふさわしい遺跡です。
ちなみに、岩谷遺跡の西側で辻遺跡の南に位置する高野遺跡は規模の大きい鉄器・鍛冶遺構です。
辻遺跡を含め、これらの遺跡は渡来系の遺物が多く、渡来人が築き上げた工業遺構とみなされています。現代でいえば「工業団地」のような地域です。
鉄器主体の岩谷遺跡に100gにも満たない量の滑石とさらに少量の緑色凝灰岩が見つかっています。隣接する林遺跡に至っては10g強の滑石が出ています。
これらの2つの遺跡は玉作遺跡というより、辻遺跡から滑石未製品が持ち込まれたのかもしれません。
滑石は柔らかくとても加工が容易な石です。現代でも「考古学体験講座」で子供たちが勾玉を作っています。これらの遺跡でもあるいは自分用に玉を作ってみたのかもしれません。

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