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古墳時代:近江の玉作遺跡の具体例
近江の玉作遺跡で代表的な遺跡の遺構・遺物について紹介します。
金森西遺跡(古墳前期、玉作工房は範囲外だが玉作関連遺物が多量に出土)

遺跡のあるところ

金森西遺跡のあるところ<
金森西遺跡のあるところ
出典:発掘調査報告書「金森西遺跡」(滋賀県教育委員会)
古墳時代前期を中心とする集落跡で周囲に溝や川が流れる低地が広がっていました。集落本体はその微高地に営まれていたようですが、発掘範囲外なので詳細は分かっていません。
全出土量から見ると、辻遺跡に次ぐ中規模の玉作遺跡、緑色凝灰岩に限れば同等の規模になります。
守山市金森町付近の県道整備事業に伴い、発掘調査された遺跡です。このため、幅は約30mで長さは600m強の細長い発掘範囲となっています。
幅が限定されているため、集落の端部が見付かったものの、集落の広がりがつかめない状況です。
溝のすぐ近くに玉作遺跡があったようで、溝や土坑から多量の玉作遺物が出てきました。
発掘範囲の南寄りの場所からは多量の緑色凝灰岩や滑石の未製品、失敗作、チップなどが出てきたほか、北端にあたる溝からも散発ながらも玉作関連遺物が出ています。多量に遺物が出た場所より350mほど離れているので、別の集落が広がっていたのかもしれません。
金森西遺跡の全体遺構
金森西遺跡の全体遺構
出典:出典:発掘調査報告書「金森西遺跡」(滋賀県教育委員会)

【玉作遺物の出るところ】

金森西遺跡の玉作関連遺構遺構
金森西遺跡の玉作関連遺構遺構
出典:出典:発掘調査報告書「金森西遺跡」(滋賀県教育委員会)

溝が半円形に取り囲む微高地(水色で着色)に建物跡があるのですが、後世に削平されており、工房や玉作に関する遺構は検出できていません。
しかし、上の図から分かるように集落を取り囲む溝と土坑より多量の玉作遺物が見つかりました。状況的には、玉作の失敗作や小さなチップを、溝に投げ捨てていたようです。

見つかった遺物  緑色凝灰岩:1.3kg  滑石:1.1kg

遺物は緑色凝灰岩の管玉(完成品、未製品、失敗品)と滑石の臼玉、管玉、有孔円板、勾玉、剣型石製品、刀子型石製品などです。
【緑色凝灰岩の石材、管玉】
石材としては、緑色凝灰岩の方が重量、点数ともに多く、ほとんどが管玉関連となっています。
完形品の管玉も13点出土しています(管玉の形をしているが、製品ではない?)。
緑色凝灰岩 原石〜管玉
金森西遺跡の緑色凝灰岩石材、管玉
金森西遺跡の管玉失敗品
金森西遺跡の管玉失敗品
出典:発掘調査報告書「金森西遺跡」(滋賀県教育委員会)

緑色凝灰岩は製作途中の粗割品、形割品などが多く見られます。未製品(形割品)は完成した管玉程度のサイズが多く、ここでは予め大きさを揃えた石を入手していたようです。出土する場所は玉作遺構の周辺の溝に集中しており限られた範囲となっています。
古墳時代に入ると鉄器が使われるようになりますが、ここでは鉄器の使用痕が認められず、石製の鋸を使っていたようです。
【管玉完形品】
管玉完形品(失敗作?)
管玉完形品(失敗作?)
出典:発掘調査報告書「金森西遺跡」(滋賀県教育委員会)
管玉として形状的には完成品と見えるが、溝や落ち込みから見つかっており、何らかの理由で捨てられたものと考えられます。写真で見ると微小な欠けた部分が認められるものがあります。
石材としては、緑色凝灰岩が7点、滑石が4点、碧玉が1点、シルト岩が1点です。
これらの石材は色の違いから、素人目にもよくわかります。碧玉は色も濃く、上質の玉であったことが判ります。
古墳時代になっても金森西遺跡では少量作られていたようです。
寸法的には、大型の2点を除くと、直径は4〜7mmの直径、長さは約2cmです。
弥生時代、近畿・山陰地方で作られていた管玉は直径が5〜7mmであり、その系統であることが分かります。
佐渡で作られていた管玉は、硬い碧玉製で寸法は直径が約2〜3mm、長さが1〜2cmです。
金森西遺跡の管玉と比べると佐渡の管玉は直径が約半分、長さは同程度ということになります。しかも、佐渡での玉作は石針で、金森西遺跡では鉄針です。
これらの点を比べると、佐渡の玉作技術がいかに高度なものであったのかが分かります。
【滑石製玉類】
滑石は製作途中の品が少なく、完成品の方が多いのです(と言っても廃棄されているので、欠陥品?)。 出土する場所は玉作遺構周辺の溝が多いのですが、広い範囲で見つかります。 製品の形は有孔円板がほとんどで、次いで臼玉未製品となります。少数ながら管玉や勾玉、石製模造品が出土しています(いずれも未製品や失敗品を含む)。 また、珍しいものとしては、ガラス製の管玉と小丸玉が各1点出土しています。
滑石製玉製品
金森西遺跡の滑石製玉製品
ガラス玉
金森西遺跡のガラス玉
出典:発掘調査報告書「金森西遺跡」(滋賀県教育委員会)

金森西遺跡で出土した緑色凝灰岩は約1.3kg、滑石は約1.1kg、辻遺跡の各々1.6kg、30kg超えと比べると、緑色凝灰岩はほぼ同適度、滑石は大きく及びません。 辻遺跡が大規模拠点、金森西遺跡が中規模拠点とする見方もありますが、金森西遺跡は古墳時代前期に栄えた遺跡であり、中期に増大する滑石玉作とは時期が少しずれたようです。

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